微生物は外界の様々な環境変化を迅速に感知して、それに適応し、生存しなくてはなりません。センサータンパク質は一般に微生物の重要な生理機能を制御しています。これらのセンサータンパク質は、周囲の環境変化をシグナルとして感知するセンサードメインと、そのシグナルをアウトプットする機能ドメインから構成されるマルチドメインタンパク質であり、一般的に球状タンパク質というよりも細長い形をしたタンパク質であることが多いことが知られています。
本アプリケーションノートでは、Bhr-HD-GYPというセンサータンパク質の溶液中における会合状態の解析を紹介します。Bhr-HD-GYP は、N末端に酸化還元に応答するヘムエリスリンドメイン及び、C末端にHD-GYPドメインと呼ばれる微生物の重要なセカンドメッセンジャーであるc-di-GMPを分解する酵素ドメインを持っています。したがって、このタンパク質は酸化還元に応答して、その酵素活性を制御するセンサーフォスホジエステラーゼです。
Bhr-HD-GYPのアミノ酸配列から計算した分子量は、モノマーあたり約67,000です。その会合状態を古典的なサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって解析したところ、二量体(134,000)と三量体(201,000)の分子量に相当する位置に溶出されました(図1)。分子量既知の標準タンパク質で検量線を作成し、このタンパク質の分子量を推定すると、約189,000であると推定され、二量体よりもむしろ三量体に近い値が得られました(図1)。
図1. SEC解析
カラムはSuperdexⓇ 200 Increase 10/300 GL (GE Healthcare)を使用。
しかしながら、そのドメイン構造や機能的ユニットから考えると、三量体よりも、二量体であることが予想されたため、、SEC-MALS解析で、絶対分子量を決定することを試みました。その結果、、SEC-MALS解析では、8.35 mlに溶出される主要なピークは分子量132,000で二量体、7.2 mlに溶出されるマイナーなピークは分子量287,000で四量体であることが確認できました(図2)。
したがって、Bhr-HD-GYPは、溶液中で主に二量体で存在していることが明らかとなりました。
図2. SEC-MALS解析
カラムは、Shodex LW-803を使用。
溶液中では、分子量が同じであるならば、球状タンパク質よりも細長い形をしたタンパク質の方が水和半径が大きく、SECカラムから、より早く溶出されることがわかっています。本実験結果より、古典的なSEC解析と 、SEC-MALS解析を組み合わせることで、溶液中のタンパク質の概形についての知見を得ることができることが示唆されました。
以上の結果より、複数のドメインからなるマルチドメインタンパク質の溶液中の会合状態を分析するのに、、SEC-MALSは強力な手法であることが明らかとなりました。
本実験結果は、Biochemistry 59, 983-991(2020) に掲載されています。
本アプリケーションノートは、東京理科大学、北西健一先生のご厚意により投稿頂いたものを元に作成しました。
北西先生のご厚意に深く感謝致します。
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