アデノウイルスは、非エンベロープ型(脂質膜を持たない)正二十面体ウイルス粒子です。
開発途上にある遺伝子治療の分野では、組み換えアデノウイルスが標的細胞に遺伝子を導入する最も成功した手段の一つとして利用されてきました。他のバイオ医薬品と同様に、製造された組み換えアデノウイルスは、サイズ分布、凝集の有無、化学的性状(例えば、単位体積当たりのウイルスの粒子数を元にした濃度)をキャラクタライズする必要があります。
アデノウイルスはサイズが非常に大きいことから、SEC法はウイルスのサイズ分布や凝集の有無に関する情報を得る目的には適していません。このアプリケーションノートでは、フィールドフローフラクショネーション(FFF)Eclipseシステムと多角度光散乱検出器DAWNを使用し、Biogen社と共同で行ったアデノウイルスの研究の結果を報告します。
図1は、5型アデノウイルスのサンプルをフォーミュレーションバッファー溶液を用いてFFF-MALS測定した根二乗平均(RMS)半径を溶出時間に対してプロットしています。
12 23分の間に溶出する主ピークは33.4±0.2nmのRMS半径を持つ単量体ウイルスです。
このRMS半径を、剛体球とみなすと43.1±0.3nmに相当します1)。実際に単一アデノウイルス粒子についてARMWG(Adenovirus Reference Material Working Group)及びFDA(米国食品医薬品局)が電界放射型走査電子顕微鏡を用いて最近報告した43.1±0.3nmの粒子径と完全に一致しています。
23~28分のピークは100nmに達するRMS半径を有するウイルス凝集体を含んでいます。2回行った実験の結果は、FFF-MALS法の優れた再現性を示しています。各溶出画分のアデノウイルスのRMS半径は、図2に示すように15°~165°までの角度における光散乱強度の角度依存性の初期勾配から計算されます。
このアプリケーションノートで示された結果から、FFFとMALS検出器を組み合わせることで、組換えアデノウイルスの凝集体の検出だけでなく、その粒度分布の測定が可能であることが結論付けられます。以上のことから、FFF-MALS法は、試料を分画しないで平均粒子径を測定する手法よりもアデノウイルスの凝集を評価解析するのに、はるかに有用であることが判りました。
(図1)
図1:5型アデノウイルスサンプルのFFF-MALS測定結果。溶出時間におけるRMS半径をプロットしています。
単一粒子だけでなく、凝集体の存在も確認できています。また、2回の測定による優れた再現性も示されています。
(図2)
図2:各溶出時間のアデノウイルスのRMS半径は、光散乱強度の角度依存性から求められます。
(参照)
1) RMS radius=(5/3)1/2R, Charles Tanford, "Physical Chemistry of Macromolecules", page 306.
2) Product Information Sheet for VR-1516 Adenovirus Type 5 Reference Material from the American Type Culture Collection(www.atcc.org).