抗体薬物複合体(ADC)のSEC-MALS分析

近年、癌治療における標的指向性の治療薬として、抗体-薬物複合体の開発が再び盛んになってきています。効果的なADCの設計における重要な因子の1つが薬物抗体比(DAR)です。DARは治療薬の効力と潜在的な毒性の両者に直接影響を与える薬物添加の割合を表し、安定性や凝集のような性質に著しい影響を与える可能性があります。従ってDARの決定は新規のADC治療薬の発展に非常に重要です。

DARは通常、質量分析(MALDI-TOFまたはESI-MS)、またはUV分光光度計によって評価されます。UV吸収に基づく計算は抗体と低分子の吸光係数が似ている為に、しばしば困難なことがあります。質量分析は分子量決定の強力な方法ではありますが、化合物の一様なイオン化と収量が前提とされていて、それはADCの場合にはいつも成り立っているとは限りません。

 ここでは、SEC-MALSUV検出器と示差屈折率検出器を接続した系でDARを決定する方法について説明します。図12つ調製法により得られたADCについてのUVのクロマトグラムと光散乱法により決定した分子量を示しています。SEC-MALS測定を行うことにより、ADCの正確な分子量得ることができます。


Fig1. SEC-MALS分析による、2つの異なる調製法で得られたADCの分子量の決定

 

 成分分析はWyatt社の解析ソフトウェアAstra6に各成分の示差屈折率増分(dn/dc)と吸光係数を入力することで自動的に行われます。この情報とMALS検出器で得られた光散乱強度から、抗体薬物複合体の各成分(蛋白質と薬物)と複合体の分子量を計算することができます。

図2は、この2つのADCSEC-MALSの複合体解析モードで測定した結果を示しています。抗体は、1250Daの化合物でアルキル化しています。両者の各画分での抗体の分子量は、ほぼ一致しており、複合体と薬物の分子量は異なることから、2つの調整法で得られた複合体が異なる平均DARを持つことが判ります。このDARの値は他の異なる手法で求めた値と一致しています。また各画分の複合体の分子量曲線は、水平になっており、これはピーク全体の抗体の修飾が溶出画分全体に渡って一様であることを示しています。


Fig2. 抗体と結合した全薬物の分子量のASTRAソフトウェアによる計算。各成分の吸光係数とdn/dcは既知とし、薬物1分子が1250Daであることを用いてDARが決定されます。

 

 

◆英文原稿は、PDFマーク.png (←こちらをクリック※一部意訳しています)をご覧ください。

◆本アプリケーション内で使用している装置

 多角度光散乱検出器 DAWN HELEOSⅡ

 高性能示差屈折率検出器 Optilab TrEX

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